NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第十五回「秀長の恋」の登場人物と演者の情景について、あれこれと随想したいと思います。
第十五回「秀長の恋」の概要
長男・秀勝が死に、母親の千草は城を去ります。寂しい秋風が吹く長浜に、播磨調略を任された秀長から嫁にしたい女性を連れ帰るという手紙が届きます。その女性は、しのという足軽の娘です。ねねとなかは喜びますが、秀吉は秀長にふさわしくないと猛反対します。秀長は珍しく秀吉に抵抗しますが、しのは黙って長浜を去ります。一方、調略に応じた小寺(黒田)官兵衛の嫡男・松寿丸を人質として長浜城で預かることになりました。
クレジットタイトル
NHK『#おんな太閤記』第十五回「秀長の恋」
作:橋田壽賀子
音楽:坂田晃一
(中略)出演
1佐久間良子 2中村雅俊 3浅茅陽子 4尾藤イサオ 5せんだみつお
連名G
中G:1滝田栄 2田中好子 3沢田雅美 4長山藍子
連名G
トメG:1赤木春恵 2泉ピン子 3前田吟 4西田敏行
(後略)#おんな太閤記クレジット pic.twitter.com/WSdFqyrmHJ— 渡る世間の片隅で (@watasumi_net) July 9, 2022
ねね:佐久間良子さん
元世継ぎの母親だった側女(そばめ)、それも既に秀吉から御暇(おいとま)を言い渡されていた千種に対して。御内室のねねが御機嫌を伺うかのような台詞が面白かったですね。
早いもの、もう四十九日過ぎたとは。あまり思い詰められると御体に障ります。たまには気晴らしに、町にお出かけになってみたら。(ねね)
秀吉様は御方様に私のことは、どう?(千種)
別に何も。気にすることはありませぬ。いつまでもここにおられたらよいのじゃ。何なりと私に言うてくだされ。御不自由はおかけいたしませぬ。女子(おなご)は女子同士ではございませぬか。なあ?(ねね)
おお、見事な紅葉(こうよう)じゃ。千種殿、ほら御覧なされませ。(ねね)
橋田先生が描写したい、ねねは相手に不自由をかけたくないことが、くどいくらい伝わってきます(笑)それと、まつがねねに豪姫を譲渡する時に発した「女子は女子同士」の台詞。今度は、ねねに受け継がれました。ほんと、橋田先生は繰り返すというか、台詞を伝承させる(笑)
続いて、長浜城内で松壽丸との御対面。
この御子が!(ねね)
まあ、立派な御挨拶じゃ(ねね)
私がついております。私を母と思って。不自由はおかけいたしませぬ。(ねね)
私が御預りいたします。さっ、おじゃれ。さあ。(ねね)
ねねの台詞一つひとつが、まさに女子(おなご)目線って感じで美味(笑)加えて、なかと連携しつつ、松壽丸の境遇に涙をみせる仕草とかね(笑)
ここで特に注目したいのが、やはり台詞の使い回し。
「不自由はおかけいたしませぬ」は、先ほど千種にも言ってましたね。「不憫な人に不自由をさせたくない」という、ねねの性分がはっきりとわかりました。
あと「私を母と思って」も、ねねが部屋に呼びたてた佐吉にも言ってました(笑)子供だった石田三成も黒田長政も、ねねが我が子同然に扱いたかったことを橋田先生がアピールしたかったみたい。
まさに、橋田先生が台詞を繰り返すのは、ねねのキャラが一貫している証し。
秀長:中村雅俊さん
第十五回のサブタイトルが「秀長の恋」ということで。秀長の回で活躍しない法はない、当時の中村雅俊さんだったわけです。
播磨の足軽の娘、しのを正室として娶ることを断じて許さなかった兄者との対立では。青春ドラマの時代に戻ったかのような中村雅俊さんのパフォーマンスが際立っていましたね。
たとえ兄者の言葉でも、こればかりは従うわけにはいかん!儂は兄者とは違う!側女など置くつもりはない!(秀長)
真っ直ぐの秀長を前面に押し出した中村雅俊さん。何だか夕陽に向かって走り出しそうな勢いがありました(笑)しの一筋が表現されたかのようなカメラ目線も絶品でしたね。
秀長については、しのの特集記事でも取り上げています。
やや:浅茅陽子さん
その年の暮れ、ねねの妹、ややに初めて子が産まれた。男の子であった。ややの幸せそうな顔を見て、ねねは子に恵まれない自分がまた辛かった。(語り)
語りが語っている最中に登場したので台詞なし。
浅野長政:尾藤イサオさん
おかかのややに比して、浅野長政に関しては、しっかりと魅せ場がありました。
家次殿。あ、これは秀長殿。御戻りでござったか。(浅野長政)
はっ。京より急用があって立ち戻りました。秀吉殿が越前の加賀へ出陣なされます。(長政)
長浜に待機中の手勢を率いて、儂には越前へ下れとの仰せにございます。(長政)
それは秀吉殿とて同じ御気持ち。が、殿の御命令とあっては是非もない。上杉謙信が越中魚津に出陣し、能登に向こうた。柴田勝衛殿だけでは、とても太刀打ちできる相手ではない。家次殿、急ぎ出陣の御手配を。(長政)
第十五回がクレジットタイトルで初の四枚目だった尾藤イサオさん。
これまでは軍議とかに居合わせているだけで、台詞がないことが多かった状況でしたが。やっと台詞が増えてきましたね。
それはそうと、気のせいかもしれませんが。浅野長政に関しては、なぜか横顔が多く、正面からのアングルが少ない印象。たまたまですかね(笑)
嘉助と弥五六:せんだみつおさんとガッツ石松さん
嘉助と森弥五六がコンビを結成していたのは良かったんだけど(笑)
何じゃ!(嘉助)
不粋なまねはよせ!(弥五六)
秀長殿をお守りするのが儂の御役目じゃ。ここは敵地も同然。いつ何時、何があるやもしれぬではないか。(嘉助)
しのと秀長の色恋沙汰を遠目から見張ろうとした嘉助に対して。一緒にいた森弥五六が妙に見ないことを強要したりと。これじゃ、秀長を警護する役割が果たせない。
それと、相変わらず弥五六が嘉助に対して乱暴的だったのが気になるところ。嘉助は秀吉の身内だからといっても、足軽大将で身分が高いわけではないことが、さりげなく表現された様相にも。
それだとしても、墨股城の番兵だった弥五六に後ろから引っ叩かれた当時に比べたら。
嘉助が随分とたくましく見えるのは気のせいでしょうか。
みつ:東てる美さん
御方様。みつにございます。(みつ)
まあ!みつ殿!(ねね)
御久しゅうございます(みつ)
みつとの再会では御約束と化した、ねねのリアクション(笑)
御義母様。秀長殿が御戻りになります。せめてそれまで。(ねね)
秀長様は美しい御客人を御連れになるやもしれませぬ(みつ)
女子(おなご)か?(きい)
あちらでよい御人に巡り会われました。それを御方様にお伝えするようにと。(みつ)
この情景で橋田先生から、おみつに与えられた大きな任務は、なかを中村に去ぬらせないこと(笑)
どういう御人じゃ?(とも)
どんな身分の?(きい)
それはいずれ、秀長様より(みつ)
自分でネタをふっておきながら、しのの個人情報をしっかりと守った、おみつ(笑)
勝家:近藤洋介さん
第八回「小豆袋」とかでは、勝家と秀吉の関係に何ら問題なく。これまでは紳士的の勝家が印象的でしたが。
秀吉が城持ち大名になったことで、関係が変わってしまったのか。
上杉軍の備えとして援軍にきた秀吉と軍議で衝突した勝家。
勝家役の近藤洋介さん。苦虫を嚙み潰したような形相と渋味豊かの声が何とも乙ですね。
杉原家次:戸浦六宏さん
家次に関しては、人質として長浜城に姿を現した松壽丸のことで、やたらと存在感を発揮していた印象。
客人ではない。人質じゃ。(家次)
官兵衛は信長様に寝返った男。形勢いかんでは、いつまた裏切るやもしれませぬ。そのため。(家次)
えらいものを引き受けたわ。万一のことがあったら大事(おおごと)じゃ。気の重いことよ。(家次)
こうした台詞からも、松壽丸に対しては厳しく対応しようとした家次の意気込みが伝わってきますね。
私がついております。私を母と思って。不自由はおかけいたしませぬ。(ねね)
私が御預りいたします。さっ、おじゃれ。さあ。(ねね)
ねね殿!(家次)
家次が松壽丸に厳しくしようとすればするほど、ねねの温かみが際立つ構図ね(笑)
なんぞして遊ぼう?(孫七郎)
松壽丸殿!(家次)
構いまえぬ!男の御子じゃ。思い切って暴れておいでなされませ。(ねね)
兎に角、松壽丸には人質としてわきまえてほしかった家次(笑)橋田先生、家次に関しても徹底してますね。
演者の戸浦六宏さんのパフォーマンスが安定しまくりなので。作り手としては、かなり家次の存在が重宝しそうですね。
利家:滝田栄さん
軍議で勝家ともめた秀吉が軍が引くと言い出したことから。
今、今、お主の一存で兵を退くことは、主命に背くことになるんだぞ!(利家)
致し方ありませんのう(秀吉)
それがどういうことになるのか、おぬし!(利家)
信長様のことじゃ、打ち首か切腹か。覚悟の上じゃ!(秀吉)
分かっていて。思いとどまれ!(利家)
兎に角、演者の滝田栄さんがあつかったですね。「おぬし!」の言い方とか(笑)
面相表現も実に豊かでした。八の字にたてた口髭と逆八の字と化した眉毛が対称になって利家の必死の形相を構成。一昔前、とんねるずの貴明さんがよくやっていたサリーちゃんのパパの顔真似をふと思い出したりと(笑)
藤吉郎!(利家)
犬千代様の御厚情、この藤吉郎、忘れませぬぞ。さらばでござる。(秀吉)
最後は若い頃の呼び名を交わしたりと。
第十五回は秀長の回でしたが、秀長に負けず劣らずの情熱を醸し出した利家でしたね。
しの:田中好子さん
第十五回「秀長の恋」では、秀長の意中の人として、しのが降臨しました。本当にヒロイン色が濃厚だった、しのでした。
というわけで、しのの情景については別記事でご紹介しています。
千種:沢田雅美さん
千種については、別記事でご紹介しています。長浜城に向けられた時と去ぬった時の御供の者を比較してみたりと。
とも:長山藍子さん
第十五回は完全に脇にまわっていた、とも役の長山藍子さん。
そりゃそうですよね、千種の去ぬり、そして秀長としのの色恋沙汰がありましたから。ともとしては、脇にまわらない法がないわけです。
それでも、いくつかの情景に登場して台詞もありました。
そうじゃ。せっかく親子で暮らせるようになったというに。(とも)
どういう御人じゃ?(とも)
また播磨へ行かれるのか?(とも)
藤吉郎が反対している娘じゃ。会いに行ったとて何になる。藤吉郎に知れたら、ただでは済まぬわ。(とも)
ほんと、こういう回に台詞があるだけよい方かも。だって、小六と浅野長政なんて、一瞬しか登場しない回が結構あったりして。
ともはね、後々に避けて通れない大きな魅せ場がありますので。
なか:赤木春恵さん
長浜城に逗留しているということで。なかの登場シーンが多くならない道理がない様相を呈してきました。
特に、千種が去ぬったことで。
藤吉郎には関わりのないことじゃ。儂は、ねねさのためにおったまでのことよ。わしゃ、中村に田や畑を頼んでる人がおるでなも、用が済んだら中村へ去(い)なねばならん。去にたいのじゃ。(なか)
なかも去ぬりたかったわけですね(笑)
じゃがのう。
秀長様は美しい御客人を御連れになるやもしれませぬ(みつ)
あちらでよい御人に巡り会われました。それを御方様にお伝えするようにと。(みつ)
小一郎が嫁になる女子(おなご)を連れて戻るとなると、やっぱり会うておきたいのう。見ておきたいわ。(なか)
小一郎の嫁になる女子(しの)に会うておきたくて去ぬれなくなった、なか(笑)
じゃがのう、足軽の娘・しのを秀長が正室として娶ることに秀吉が大反対。終いには、秀吉と秀長が取っ組み合いの喧嘩になりそうな展開になったところで。
こら!やめんか、藤吉郎!こら!ええ年して、たかが女子(おなご)のことで兄弟げんかなんかしおって!藤吉郎!おみゃあが悪(わり)い!(なか)
この時の赤木春恵さんを静止画にすると結構かわいいものです(笑)
兎に角、なかが大活躍の様相を呈していましたね。
結局、しのが独りで播磨に去ぬったことで、なかが会うことはできず。
秀長殿もまた、すぐに播磨に立たれる由にございます。その折に、しの殿にお会いになれましょう。(ねね)
やれやれ、これでは心が残って中村に去(い)ぬこともできぬわ(なか)
というわけで、去ぬるタイミングを逸してしまった第十五回の、なか(笑)
きい:泉ピン子さん
とも同様、きいに関しても第十五回は脇役。
というわけで、きいの台詞を拾ってみると。
義姉様!義姉様!おっ母さが中村へ帰ると言って聞かぬのじゃ!(きい)
おっ母さ!(きい)
あ、儂にか?嘉助さ、儂のこと忘れんで。それで、いつ帰る?(きい)
実(まこと)か!(きい)
女子(おなご)か?(きい)
どんな身分の?(きい)
如何にも楽そうな短い台詞を頂戴した感じ(笑)これはこれで有難いと思わなきゃ。
そうよ。小一郎兄さが勝手に。嘉助さに何の罪があるというのじゃ!たとえ兄さでも許せぬ!(きい)
結構、きいがいい感じで台詞をもらっていたことに気づく(笑)ともよりも台詞が多かったですね。まさに橋田先生、様様(笑)
小一郎兄様も、ほかに女子(おなご)がおらぬわけではあるまいに(きい)
きい様とて、御好きな嘉助殿に添われたのではありませぬか。夫婦(めおと)は生涯連れ添うもの。お互いの心が触れ合ってこそ、助け合うものじゃ。周りの裁量で決められるものではありませぬ。(ねね)
最後はしっかりと、ねねから突っ込まれた、きい。そりゃそうだよね。自分だって嘉助が他の女に手を出したら嫌でしょ。ねねの台詞を通して橋田節が炸裂したわけです。
小六:前田吟さん
軍議にはしっかりと居合わせていた、小六。それでも台詞はなし(笑)
如何にも調略に乗っかった武将が土下座して首(こうべ)を垂れている絵面。そこにも小六が居合わせていたけど、語り手が語っている最中だったので、やっぱり台詞なし(笑)
小六に関しては、極めて間もなく、大活躍する回があるので。第十五回はこれで良しとしましょう。
秀吉:西田敏行さん
秀長が正室として播磨の足軽の娘・しのを娶ることに独りで反対した秀吉。
戯けたことを言うな!どこの誰の娘だか知らんがのう、儂の許しものう連れてきおって。城へなど入れられる道理がなかろうが!(秀吉)
足軽の娘じゃと!しかも播磨の!秀長、お主、何を血迷うておる。(秀吉)
するだけのことはしてやろう。銭ならいくらでも出してやるわ。(秀吉)
許さぬというたら許さぬわ!それほどの女子(おなご)であれば側女(そばめ)にでも置いとけ!ならば儂も目をつぶってやろう。じゃが、正室としては許さぬぞ。(秀吉)
まさに秀吉怪獣。問題発言のオンパレードでした。これで天下を獲ってしまったら、独裁者になるのは必須の様相にも。恐ろしや、恐ろしや。
秀長に足軽の娘を娶らせたくなかった理由は。
信長様が怖い。信長様の前には儂の命など吹けば飛ぶようなものよ。いつ、どのようなことで信長様の御勘気に触れるやもしれぬ。そうなれば出世どころではないわ。儂の首などひとっ飛びよ。(秀吉)
だから、信長の姪っ子を秀長に頂戴することで、信長と親戚になりたかったらしい。
それにしても、百姓の倅で足軽の娘を娶った自分のことは棚に上げて。説得力に欠けるかも。
今、今、お主の一存で兵を退くことは、主命に背くことになるんだぞ!(利家)
致し方ありませんのう(秀吉)
それがどういうことになるのか、おぬし!(利家)
信長様のことじゃ、打ち首か切腹か。覚悟の上じゃ!(秀吉)
分かっていて。思いとどまれ!(利家)
己が正しいと信じたことで命を落とすならば本望でござる。負けると分かっている戦をして無駄に兵を犠牲にするより、その方がよっぽどましじゃ!(雄叫び、秀吉)
秀吉、もっともらしいこと言ってるけど。ねねに「信長様が怖い」から、秀長に信長の姪っ子を娶らしたいみたいなことを言ってたよね(笑)もちろん、このあたりは橋田先生による物語の構成上のことなんだけど。
はっきりと嫌な意味で目立ってきたのは、秀吉の独りよがり。何か孤独と戦っているような秀吉の様相が演者の西田敏行さんによって巧みに表現された印象。カメラ目線とかでね。
次回に続く
週刊おんな太閤記随想、第十五回「秀長の恋」
第十五回「秀長の恋」について、渡隅版のまとめ記事