NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第五回「墨股築城」における橋田壽賀子脚本らしかった部分をあれこれと随想します。
第五回「墨股築城」の概要
NHKオンデマンドの場合
信長は、秀吉の申し入れで対面に訪れた鵜沼城主・大沢基康を斬るように命じます。そうなると、鵜沼城に残り人質になった秀吉の命が奪われます。ねねの願いが通じたのか、利家と柴田勝家が信長を説得して、基康の斬殺を思いとどまります。秀吉は人質から解放されると、長良川の対岸に墨俣(すのまた)城を築く総大将を引き受けます。敵を前面に迎え撃ちながらの危険な築城です。ねねは秀吉の身を案じながらも覚悟を決め励まします。
週刊おんな太閤記随想、第五回「墨股築城」
第五回「墨股築城」について、渡隅版のまとめ記事
気にならない道理がない橋田壽賀子脚本
どちらかと言えば、演者とかというよりも、橋田先生の脚本の方かな、といった話題を取り上げてみました。
急いでいても手土産を忘れず
おみつからの知らせを受けて。大根やらカブやらを担ぎつつ、中村から小牧山まで駆け抜けた小一郎。
演者は、中村雅俊さん。
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このあたりは、芸が細かいというか、橋田先生もおなご(笑)
急いでいても、野菜も一緒に持っていけば、きっと義姉様が喜ぶだろうな、とか。さりげなく、小一郎の優しさが表現されていましたね。
「いいじゃん、とりあえず手ぶらで行けば」とか、勝手に思いがちですが。
おかんむりでも礼を重んじる
儂は信長という男が、大嫌いじゃあ!(小六)
人質になっている秀吉を見殺しにしようとした信長に対して。「だい・きらい・じゃあ!」に刀の所作を呼応させて、おかんむりの気持ちを露わにした小六の三拍子。演者は、前田吟さん。
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兎に角、信長に対して、おかんむりだった小六でしたが(笑)
秀吉の弟、小一郎に対しては柔和の笑顔で一礼。
どんなに怒りがあっても、礼儀は尽くす。小六が必要以上に取り乱すことを禁じた橋田先生。
このあたりも、らしいかもですね。
困ったときの祠頼み
秀吉の無事を願った、ねねが祠(ほこら)で参籠(さんろう)した一幕。
しっかりと左足の裏には血糊のアクセントも。
傷が咎(とが)めのリスクを顧みなかった一心不乱のねねを橋田先生が表現した祈りの時。
おまけに、小一郎の優しさもスルーされてましたし。
小一郎が、ねねをおぶろうとしたものの。参籠に夢中の義姉様にスルーされてしまった腰高のうんこ座り。
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橋田先生、細かい(笑)
初登場の洗礼
第五回で初登場だった勝家役の近藤洋介さんのために。
橋田先生が「ウェルカム!」とばかりに用意した台詞。
秀吉の命など小さいこと。殿、織田家の御為に、短慮はお控え遊ばしますよう。秀吉の労により数多の川並の土豪衆をお味方につけることができました。これからも、殿の威光を慕うて寝返る者も増えましょう。しかし今、基康を成敗なされたら、殿になびいた者なびこうとする者、皆殿に、猜疑の念を抱くようになるのは必至。さすれば、多くのお味方を失うことになりまする。基康一つの命と殿の御信用と、いずれが大事にござりまするか?小の虫の為に、鼎(かなえ)の軽重を問われるようななされ方は、いつか、織田家の災いの元となりましょうぞ(勝家)
出典:NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第五回「墨股築城」
役者さんって、本当に凄いですね(笑)
ほんと、橋田壽賀子作品に関しては、向いている役者さんとそうでない役者さんがはっきりする傾向。近藤洋介さんは無難にやり過ごした印象でしたが。
大根で殴る
おなごの涙を表した直後。桶を秀吉の顔に(笑)そして、大根で殴る(笑)
時として、食べ物を粗末にするのも橋田壽賀子作品の流儀。
せっかく小一郎が持ってきてくれた大根が凶器として使用された可能性も(笑)
時にはスクールウォーズのように
墨俣築城係に名乗りを上げない家臣団に対して。
たわけえ!これしきの事ができんでようぬけぬけと家臣団が(務まるのか)!(信長)
腰抜けどもがあ!誰もおらんのかあ!(信長)
出典:NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第五回「墨股築城」
TBS『スクールウォーズ』で、川浜高校が相模一高に109対0で負けた時の滝沢賢治の様相を呈した藤岡信長。流石に、家臣一人ひとりにビンタをお見舞いすることは橋田先生が許さなかった次第。
出来過ぎた、おかか
連れ添ってもう五年になります。色々なことがございました。あきらめることも、覚えました。わたくしがいくら言うても、御前様は御自分の思ったとおりなさる。黙ってついてくよりほか仕方がございません。ただの功名心でなされるのではないとゆうことも、お引き受けなされたからには、
必ずやり遂げる自信がおありだということも、もう御前様のことは心配いたしませぬ。案ずるだけ、損でございます。(ねね)出典:NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第五回「墨股築城」
兎に角、綺麗事を優先させた橋田先生(笑)これにはちょっと違和感あるかな。
語りが長い
墨股築城の準備がはじめられた。信長は、まず大兵を率いて、美濃とは正反対の伊勢の大名、北畠具教を攻める用意を整えると触れさせ、二千間の塀をこしらえるための板、柵にするための木材五万本などを駆り集めさせ、この噂が稲葉山に伝わると、斎藤龍興は、信長が美濃をあきらめて伊勢の北畠を攻めるらしいと安堵した。秀吉の思う壺である。そして、いよいよ織田全軍を上げての墨股築城の日が近づいた。尾張の国中の兵力を三つに分け、その三分の一の軍勢で敵の奇襲に備え、残り三分の二の人数で砦の工事にあたる計画であった。(語り)
出典:NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第五回「墨股築城」
一気に説明させちゃったよね。それにしても、語りまで長い(笑)
徹底した、ややの秀吉嫌い
言葉に限ったことではなく。ビジュアル的にも、義兄・秀吉に噛みつかんばかりだった、やや。
演者の浅茅陽子さんと西田敏行さんの口と口が接吻寸前だった義兄妹の一幕。
画像:NHK大河ドラマ『#おんな太閤記』第五回「墨股築城」 pic.twitter.com/oIoARpK1IL
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絵面的には笑うしかないけどね(笑)西田敏行さん、吹き出しそうにならなかったのかね。
だって、浅茅陽子さんの面相表現が漫画みたいなんだもん。ほんと、浅茅さんは楽しそう。
ややが祝言の日も秀吉に苦言を呈していましたからね。
後々、ややが太閤に首をはねられるんじゃないかと心配になります。
おなごの気持ち
「利家様、お腹のややの為にも御無事で」と願った、まつに比して。「御前様、存分の御働きを」と願った、ねね。
作者が二人のおなごで表現した価値観の違い。演者は音無美紀子さん、そして佐久間良子さん。
画像:NHK大河ドラマ『#おんな太閤記』第五回「墨股築城」 pic.twitter.com/uUSF0oFpfW
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まつと比較することで、ヒロインのねねを主張させる傾向かも。
私たちのために生きて帰ってきてほしいと願うのも、おなご。
己は二の次で、御前様の自己満足を尊重するのも、おなご。
やはり、主役はおなご。
なかの思いとは真逆へ
ではその、墨股とやらの戦に連れてったというのか、小一郎を(なか)
はい今朝、秀吉殿とともに御出陣なさいました。それで、急いでお詫びに(ねね)
あの、戯け者めが!(なか)
出典:NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第五回「墨股築城」
戦の惨たらしがわかっている、なか。事あるごとに侍となった秀吉を遠ざけようとするのですが。
どんどんと身内が秀吉に奪われていく流れ。
そして、秀吉の義弟・嘉助もまた。
義姉様、嘉助さが家を出てしもうて(きい)
兄さのところへ侍になると、墨股へ!(きい)
おっかさと二人で止めたのじゃが、今朝起きてみたら姿がないのじゃ(きい)
出典:NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第五回「墨股築城」
史実を尊重しつつ、おとこたちを戦に駆り出すことで、なかを含めた、おなごの悲哀を橋田先生が巧みに表現したい思惑が伝わってきますね。
足軽女房の悲哀
必ず生きて帰ってくるって言うたではないかあ!おまえさまあ!😭
墨俣築城でお美代の御前様が命を落とした一幕。作者がとっておきの場面で大鹿次代さんを起用した足軽女房の悲哀。
画像:NHK大河ドラマ『#おんな太閤記』第五回「墨股築城」 pic.twitter.com/Hy96nJiaEr
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極めつけは、後家さんにするために再びお美代を投入。
徹底した、おなご目線の様相にも。
戦後の寡婦保障
ねねが後家さんになってしまった、お美代を女中として召し抱えることに。
橋田先生が、しっかりと戦国時代における寡婦の保障に焦点をあてた一幕です。
次の回に続く
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