NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第七回「上洛への道」における橋田壽賀子脚本らしかった部分をあれこれと随想します。
第七回「上洛への道」の概要
NHKオンデマンドの場合
信長は念願の美濃を手に入れ、岐阜と改めます。秀吉はねねと岐阜へ移り、弟・小一郎に加えて、姉・ともの夫・弥助と妹・きいの夫・嘉助を家来にします。しかし、武士の生活が嫌いな母のなかは岐阜へは来ません。しばらくして、姉のともが長男・孫七郎(秀次)を産みます。ある日、将軍・足利義昭を美濃に迎えるための接待役に、ねねとまつに白羽の矢が立ちます。いよいよ、信長上洛(じょうらく)の日が近づいてきました。
不妊ハラスメント
第七回のサブタイトルは「上洛への道」でしたが。それは建前上のことであり(笑)実質的には「不妊」に悩むヒロインが何かとクローズアップされていましたので。ねねの不妊が今後の物語を大きく左右する極めて重要な仕儀であったことが、くどいくらい示唆された様相にも。物語を観ていくとわかるのですが、兎に角、登場人物を駆使した、ねねへの「不妊ハラスメント」略して「フニハラ」が容赦なく。子が授からないヒロインに対して、ほとんどの登場人物が配慮に欠けている点が見どころかも(笑)まさに、橋田先生がこしらえた、ねね包囲網。それも冒頭から。
お引越しに、つわりが絡む
NHK大河ドラマ『利家とまつ』も然り。織田家臣の出世物語でお約束となるのがお引越し。ってことは、もちろん活躍するのは、まつとねねになるわけですが。そこで、冒頭から大きくメインキャストに絡んでいくのが、とも。これは、まさにNHKおんな太閤記ならでは。他の大河ドラマであれば「とも?誰?」のレベルでしょうから(笑)それもお引越し中に、つわり。
というわけで、まつ、ねね、とも、三者三様の女子(おなご)の状況を簡単に説明すると。
こんな二人に囲まれた、ねねの心中は。想像するに容易いかも。
まつに覚えあり、ねねに覚えなし
ねね様にはお分かりにならぬかもしれませぬが、わたしには覚えがございます(まつ)
子が授からないのが辛かった、ねねに対して。まつを通して作者が容赦なく突きつけた、覚えの有無。
画像:NHK大河ドラマ『#おんな太閤記』第七回「上洛への道」 pic.twitter.com/Ugia9AJBbr
— 渡る世間の片隅で (@watasumi_net) May 16, 2022
ねね様にはお分かりにならぬかもしれませぬが、わたしには覚えがございます(まつ)
橋田先生が描写した経験のコントラスト(笑)わざわざ、こんなことを容赦なく、まつに言わせた橋田先生の神髄が光りますね(笑)思わず「どの口が言うとるんじゃ!」と言いたくもなってきますがね。そもそも、まつを通して橋田先生が表現したかったことなので。まつに罪はありません。
空気を読める、おあさ
人に世話ばかりしておらずと御姉様も早うややを産んで世話をしてもらうようにおなりなされ(やや)
妹・ややからも、御約束の様相を呈した不妊ハラスメント。本当に何かと辛かったであろう、ねね。でも、登場人物のみんながみんな、無神経体質だったら、流石のねねも心底まいってしまいそうですが。
橋田先生の場合、しっかりと空気が読める登場人物の台詞をさりげなく挿し込んでくるわけです。
やや様。御姉様にあのようなことを。ねね様とて、お子のできぬのを気になされているのですから。(あさ)
橋田先生が、不妊ハラスメントに終始せずに、しっかりと、ねねに対して逃げ道を与えてきましたね。ヒロインを追い込むばかりが能じゃない、といった様相でしょうか。このあたりは、やっぱり橋田先生のバランス感覚がさりげなく光っていた一幕。
義弟からも然り
実に目出度い。いやな、ねね殿に子供がのうて心配していたが、これでともさに男の子でも産まれたらもう安心じゃ。いざとなれば木下の家を継ぐこともできる。のう義兄様!(嘉助)
異様に口が過ぎた嘉助。この点に関しても、橋田先生が嘉助に空気を読ませなかった一幕。わざわざ、義姉様のことを口にする必要はないわけで。
他方、小一郎。
嘉助さ、馬鹿なこと言うものではない。とも姉さは八年目にやっとできたのじゃ。義姉様はまた七年。まだまだこれからではないか。今に立派な跡継ぎを御産みなされるわ。(小一郎)
嘉助に比して、義姉様に配慮した小一郎だったけど。これはこれで、不妊に悩む、ねねとしてはやっぱりプレッシャー。
秀次を産んだ、ともからも
(笑)ねねさは本当に子供が好きなような。ねねさんも早う、御自分の御子を抱けるようにおなりなされ。(とも)
史実を分かっている人であれば。ねねに浴びせかける身内の一言一言がさりげなくきつい。ほんと、当時の橋田先生は不妊ハラスメントの使い手。罪の御人じゃ(笑)
信長からも子作りプレッシャー
おかかだけではなく、秀吉に対しても信長からプレッシャーが。
この子が茶々。猿見てみい。お市によう似て愛らしい子ではないか(笑、信長)
なかなか御利発そうな、しっかりした姫君でございますな(秀吉)
うん。猿も負けずと早う子を作れ(笑、信長)
部下への子作りプレッシャー(笑)
三十路を過ぎて子どもがいない既婚女性の部下に「マル高」とか言って、妊娠プレッシャーをかけていた上司が一昔前にいましたけどね(笑)
夫の秀吉からも
長政殿とも仲睦まじゅう、お茶々様をもうけられて、ますます美しゅうなられて。お茶々様を抱かれたお市様は、幸せを絵に描いたような晴れ晴れとした御顔じゃった。安堵した。
お茶々をこしらえた、お市の幸せを秀吉から伝えることで。子どもが授かっていない、ねねに思いっきりプレッシャーをかけた橋田先生がくどい(笑)
それでいて、秀吉からの愚問を、ねねに浴びせかけて。
おかかは、幸せか?(秀吉)
はい(ねね)
んなわけはないだろう、橋田先生ったら(笑)
というわけで、結論として。
子供さえ産まれたら。ねねはつらかった。(語り)
これに尽きた、ねねの第七回。
史実的伏線
当ブログにおいて、初見の方に配慮して、できるだけネタバレには配慮している昨今ではありますが。如何せん、NHKおんな太閤記は歴史物ということで。ネタバレに配慮しようとしても、史実がそれを許さないことも多々あったり。
この点については、史実的伏線として捉えていきたいと思います。NHKおんな太閤記の場合、橋田先生の伏線のばらまき方も半端なくて(笑)
子のない女子(おなご)
あたしは御姉様の人のいいのがもどかしいのじゃ。子のない女子(おなご)は身内にも軽う見られる。とも様に大きな顔などされては、御姉様が御可哀想じゃ。(やや)
ともが男子をもうけたから大きな顔をしたかどうかは別として。
ねねが男子を授かったかどうかって、結果論だけど、日本の歴史を大きく左右させたよね。ともが男子を授かったからといって果報だったかどうか。ともにとっても、ねねに男子を産んでもらった方が結果的に果報だったはず。
ほんと、奥が深いことを考えさせる橋田壽賀子脚本です。
初めての甥
姉さ、よかったのう!是非とも男の子をのう。立派な男の子をお願いしますぞ。さすれば儂にとっても初めての甥。心強い限りじゃ(笑、秀吉)
そうじゃそうじゃ。姉様御一人の御身体ではないぞ。生まれてくる子供は我ら一門の子じゃ。我ら一門の将来を担う立派な子じゃ!(秀吉)
秀吉が男子の甥を望めば望むほど。後々のことを考えるとぞっとして止まない。
どれ、来るか?あ、来るか?これこれ。おっ、こやつ、儂が抱こうとすると顔を背けるのう(笑、秀吉)
乳児の秀次が秀吉に顔を背けるという小ネタでしたが。野生の勘とでもいいますか。乳児の秀次に将来の危険察知能力があったのかどうか。
なあ、この子は果報者じゃ。みんなにかわいがってもろうて。なあ、ねねさに御子ができるまでのことじゃろうが。(とも)
ともにとって、この頃は本当に果報だったのでしょう。橋田先生、今は果報アピール全開の様相ですが。これも、後々の反響を計算に入れた仕打ちとしか思えない限り。怖い怖い。
それにしても、まだ秀吉が一国一城の主にもなっていないうちから、とも親子の悲喜こもごもを描写しようとした橋田壽賀子脚本。やっぱり、ならではですね。
なかの千里眼
今は殿さまの覚えが目出度いというて大きな顔をしておるがのう、こんな世の中じゃもの、信長様とていつ、何時ほかの大名にやられるかもしれぬ。(なか)
なかって、中村の百姓でしょ。千里眼が凄すぎ(笑)ある意味では、橋田先生の「浮世離れポイント」が高いかも(笑)
なかに同調した利家
なかの千里眼に同調した利家、そして。
いや、人の定めは分からん。今日日の出の勢いの信長様とて、いつ何が起こるか。それが乱世というものじゃ。(利家)
信長って、利家にとっては御屋形様、すなわち上司のわけでしょ。かなり口が過ぎるし、色んな意味で危ないよね。まわりが「口が過ぎますぞ」ってツッコミを入れたほうが現実的だったかも。
このあたりも、橋田先生の「浮世離れポイント」が高め。それだけ信長のリスクを事前に強調しときたかったんだろうけど。くどい(笑)
織田家と浅井家は安泰??
市。そなたは立派に、浅井家の人間になってくれた。じゃがのう、信長の妹であることには変わりはない。それを忘れるな。(信長)
わざわざ、幸せの絶頂にある妹・お市への苦言が。これから何かが起こりますよって、橋田先生の予告編と化しています。
お市様が御幸せであれば、織田家と浅井家は安泰。近江が離反する心配もない。(信長)
このあたりも、史実的には橋田先生が白々しい(笑)くどい。
御荷物の小姑
秀吉殿も秀吉殿じゃ。身内をまわりに置きたいばっかりに。そのうち、きい様も中村から出てこられよう。みいんな、御姉様の御荷物じゃ。(やや)
嘉助殿も、弥助殿も、秀吉殿の御家来衆じゃ。その家の者の御世話をするのは、おかかの役目。秀吉殿の、御身内だからしてるのではないわ。(ねね)
赤の他人ならいっそ気も楽じゃろうが御姉様には小姑じゃ。これからが思いやられる。(やや)
兎に角、橋田先生は、ややに図星を言わせます。
ねねはヒロインとしての綺麗事を建前としているから。妹のややに本音を語らせてるって感じでしょうか。だから、ねねやや姉妹は表裏一体の様相にも。
姑もそうだけど、小姑に関しても、適度な距離感でお付き合いしたいものですが。ねねの場合、世間一般とは異なり、小姑夫婦を居候として迎え入れて、そのお世話までも。だから橋田先生が、つわりで動けなくなった小姑を御荷物呼ばわりしたのにも説得力があります。
一見すると、ややが小憎らしくも見えてしまうのですが、発言の裏には、姉思いの妹の心情を橋田先生が強く描写している様相にも。
ちなみに、ヒロインと小姑の同居については、後の世の渡鬼でも表現されていましたが。小姑としては、久子とかの方が、さらに厄介だったような気もしますけど(笑)
姑と一緒に暮らしたい
御義母様にここに来ていただきたいのじゃ。家も広うなった。とも様もおいでになる。孫がおできになったと聞いたら、きっと来てくださる。それに、御義母様が中村においでになったのでは、きい様も、中村から離れるわけにはいかぬ。嘉助殿が御気の毒じゃ。(ねね)
(笑)おかかも物好きじゃのう。何も自ら、姑の苦労を買うて出ることもなかろうに、うん?(秀吉)
わたくしばかり果報では、罰が当たります(ねね)
ねねは綺麗事を大切にするというヒロインとしての建前を背負っているから。
それに対しての世間一般的な本音について、秀吉を通して橋田先生が表現されました。
一緒に住んでみたらどうなるかわからないけど、姑・なかとの関係は極めて良好ですからね。
NHKおんな太閤記であること、また戦国時代という背景が強く影響しているとは思いますけど。嫁姑問題について、あれやこれやと物語を展開させて止まなかった渡鬼の印象が強いので。なかとねねの嫁姑関係は、橋田壽賀子作品としては稀有の部類かもしれませんね。
小一郎・きいの実父も木下弥右衛門
儂はそういう思いをしてきたからこそ言うのじゃ。御前らの御父は、戦で受けた手傷がもとで死んでしもうた。きいはまだ儂の腹ん中じゃったが、年端も行かぬ子を三人連れて途方に暮れてのう。しかたのう、二度目の御父の所に行った。じゃがのう、その御父と藤吉郎の折り合いが悪うて、儂はどんなにつらい思いをしたか。藤吉郎が、儂や家を捨てて、侍になったのも、戦が御父を殺したからじゃ。ともの子じゃとて、いつそのような思いをするかもしれぬ。産まれてくるだけ、不憫よのう。(なか)
とも、秀吉、小一郎、きいの四兄弟の実父が、いずれも木下弥右衛門であることが明らかになりました。このことについても、橋田壽賀子作品ならではといってもよいのではないでしょうか。
渡隅が子供の頃に読んでいた、まんが日本史の豊臣秀吉では、小一郎とあさひに関しては継父・竹阿弥の子だったりでしたね。NHK大河ドラマ『秀吉』なんかも、竹阿弥の採用だったかな。財津一郎さんが表現されてましたよね。
橋田先生が、小一郎・きいの実父についても木下弥右衛門を採用したのは、はっきりしましたが。二度目の御父(竹阿弥)の安否について、なかが語っていなかったのが気になるところ。だって、本当だったら一緒に住んでいてもおかしくはないですよね。
足利何とか様の接待役
織田家には大層な美女がおられるのう(義昭)
前田又左衛門利家、木下藤吉郎秀吉の妻女にございます。将軍家に御無礼があってはと、特に頼んで来てもろうております。(信長)
此れはしたり。織田家にその人ありと知られた猛将、知将の内室直々に接待をいただくとはな。いや恐れ入ってござる。(義昭)
信長殿の気の遣われよう、ただごとではございませぬなあ(明智光秀)
(笑)いや、信長風情が天下の大将軍をお迎えできたのでござる。御心に添うよう、田舎大名が精一杯のもてなしにございます。(信長)
まこと信長殿は頼りになる御人よ(笑、義昭)
まつとねねが大層な美女説を採用した橋田先生(笑)これって、橋田先生が勝手に創作しているだけで、史実じゃないよね??あまりにも、まつとねねのことを盛り過ぎでしょ(笑)実際のところ、まつとねねにお会いしたことがないのでよくわかりませんが。何だか、橋田先生に言い含められた心境にも(笑)
さらには、当たり前のように、義昭とかがご満悦(笑)田舎大名の配下のおかか二人に将軍様が本当に満足するのかな??変だよね(笑)
信長の台詞も凄くおかしいし。だって、まつもねねも、配下のおかか。に対して「特に頼んで来てもろうております」って、あり得ないでしょう(笑)ほんと、変な台詞の応酬に絶句するばかり(笑)
でこの後、さらに!
殿も御満足の御様子であられた。信長様はなかなか大した御方じゃ。おかかとおまつ殿が接待に出れば、信長様がいかに客を重う見ておられるか、相手に知らせる手立てにもなる。つまらぬことのようじゃが、効き目をちゃんと御承知じゃ(笑、秀吉)
まつとねねの接待役が妥当であったことを強調して止まない橋田先生、くどい(笑)ほんと、言い含めてくるよね。盛り過ぎ(笑)
(笑)貴殿、義昭公を何と心得ておられる。義昭公は天下の将軍家におわすぞ。そうたやすう御目通りの叶う御方ではないのじゃ。(藤孝)
それでいて、おかかの旦那・秀吉に関しては、細川藤孝を通して義昭との面会をしっかりとお断りしていたから(笑)事情は異なるけどね。
亭主関白殿下
どのような御用向きで(ねね)
うん。いちいち聞くな!(秀吉)
申し訳ございませぬ。女子(おなご)のあたくしが、口出しすべきことではございませなんだ。(ねね)
兎に角、橋田先生が表現する秀吉は妙に偉そう。特に「いちいち聞くな!」は非常にやばいレベルかも。だって、いちいち聞くことができなくなったら、秀吉のやりたい放題が目に見えているので。
後々、十何人もの側室を持つ秀吉の浮気はこの頃から始まったらしい。ねねの夢にも思わぬことであった。(語り)
結局、こうなるわな(笑)ねね、御気の毒様。
お市との対面後にブルースが流れる
真顔っぽい西田敏行さんとか(笑)
お市が浅井家に輿入れした時もそうでしたが。お市絡みになると、橋田先生が秀吉にブルースを流すんだよね。
こうした情景からも、橋田先生が描く秀吉が独りよがりで、おかかの果報を軽んじない道理がないことが如実に現れていますよね(笑)
週刊おんな太閤記随想、第七回「上洛への道」
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