NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第六回「一夜城主」における橋田壽賀子脚本らしかった部分をあれこれと随想します。
第六回「一夜城主」の概要
NHKオンデマンドの場合
秀吉は小一郎や小六らと一夜で墨俣(すのまた)城を築き、城代として常駐します。隣家の利家とまつに第一子が生まれると、ねねも子どもを欲しくなりました。永禄10年(1567)8月、信長が美濃に総攻撃をかけると、秀吉の調略活動や前線部隊長としての活躍が功を奏し、稲葉山城は陥落。秀吉は信長から瓢箪(ひょうたん)の馬印を許されますが論功行賞はなく、気落ちします。しかし、ねねに励まされてやる気を取り戻します。
気にならない道理がない橋田壽賀子脚本
どちらかと言えば、演者の色とかというよりも、橋田先生の脚本の色かな、といった話題を取り上げてみました。
お気に入りに追加されたガッツさん
ガッツさんが扮した森弥五六が大活躍だった第六回「一夜城主」。兎に角、何かと出番が多かったのが物凄く印象的。なぜ、ここまで森弥五六が大活躍したのか??
だって、第五回「墨股築城」では、砲戦の情景に、ほんの一瞬だけ登場したに過ぎなかったから。
それが、第六回で物見櫓の番人として、数多の情景で姿を現した次第。一夜城で他の仲間たちが宴会中、物見櫓で職務中だった森弥五六のドアップな面相が(笑)橋田先生の中で何かスイッチが入っちゃった様相にも。すなわち、何かしらの理由でガッツさんのことがお気に入りになったわけですね。そして、ガッツさんが扮した森弥五六という役に広がりを魅せたのかと。でなければ、第六回の頻出はありえないでしょう。
その後も、NHKおしん、そして橋田壽賀子作品の大河ドラマにも何かとキャスティングされていましたから。
橋田先生って、見かけがどうのこうのではなく、実直の人が好みなんでしょう。
そう言えば。4月11日は #ガッツポーズの日 だったみたいですね。というわけで、ガッツ石松さんの情景💪#今日は何の日 #ラリアット
画像:NHK朝の連続テレビ小説『#おしん』第229回 pic.twitter.com/9rYYPp0F54— 渡る世間の片隅で (@watasumi_net) April 11, 2022
泉ピン子さんの魅せ場がてんこ盛り!
当時の格からしても。泉ピン子さんにとって、きいを演じていて役者冥利に尽きたんじゃないかな。まさに登り龍といった様相で、これでもかというくらい、勢いのパフォーマンスで魅せまくっていましたからね。
しっかり活躍してこいと言わんばかりに、橋田先生が、きいの魅せ場を意図的にこしらえにきてた様相にも。泉ピン子さんとしては、そんな橋田先生からの期待に応えない道理がなかったわけです。
その後の朝ドラや大河ドラマの橋田壽賀子作品に起用され続けて止まなかった泉ピン子さん。平成に入ってくると、名実ともに主演役者の地位を確立させたわけですが。昭和の頃だと、重用度の高さが目立っていたかも。だって、大河ドラマ『いのち』なんか、名だたる大先輩の役者さんが出演された中、宇津井健さんの登場がない回なんて、結構トメに入ってましたからね。
だから、泉ピン子さんに関しては、いつの時代も別枠、別格扱いの様相を呈した橋田壽賀子ドラマ。でも、やっぱり実力があったからこそ、名実ともに上り詰めることができたんでしょうね。
もちろん、泉ピン子さんに関しては、個人的に好きな役者さんの一人であることは言うまでもないですね。
剣道の「めーん!」が決まって「よっしゃあ!」の様相を呈した、きい。観ていて爽快でしたね。
ねねときいに供をつけた利家
ねねときいが墨股へ。ここで、おなごだけの旅にさせなかった橋田先生。利家の計らいで、ねねときいに供の者(男たち)が同伴することに。このあたりも、繊細ですよね。
当時だと、おなごを狙った追い剥ぎだの手籠めとかが横行した様相でしたので。
たかだか、小牧山から墨股に行くだけでも、おなごだけでは非常に大変だったことが表現された一幕。
かがり火を消さない法はない
斎藤勢に対して、秀吉方が瞬時に篝火(かがりび)を消火した夜襲対策。
守備側の動きが丁寧に描写された一幕でしたね。
嫁姑問題を挿し込まない道理がない
のおー、儂のことを少しでも大事に思うてくださるのなら、御前様からも藤吉郎にお願いしてくだされ。朝から晩まで、舅や姑に怒鳴られながら、畑仕事をしている儂の身にもなってほしいわ(とも)
ねねさはええのう、姑の苦労ものうて。なっ、うちの人が侍になってくれたら、儂もあの家を出られるう。舅、姑の辛い思いは、もうたくさんじゃ。なあ藤吉郎、頼む、儂の身にもなってくれ(とも)
出典:NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第六回「一夜城主」
ねねとなかは一緒に住んでないけど、嫁姑としては結構上手くいってる様相にも。それ故に、橋田壽賀子作品として、何か物足りない部分を埋めようとしてくれた、とも。舅と姑のために辛い思いをしていたとはね(笑)
ほんと、橋田先生って嫁姑問題が好きだよね。それも、時代を問わず(笑)
女尊男卑の御産
利家と秀吉のせいにて。お美代が手伝いによこした、おかかが沸かしたお湯が台無しに。その結果。
男の方は出ていてくだされ!(名無しのおかか)
出典:NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第六回「一夜城主」
橋田先生の思う壺の様相を呈した、女尊男卑の一幕。
ちなみに、男性が助産師になれない日本の現状は令和の世に入っても相変わらず。
祠で義兄への恨みつらみを唱えた、やや
弥兵衛殿にもしものことがあったら秀吉殿のせいじゃ。秀吉殿さえいなかったら、こんな危ない目に遭わずにも済んだんじゃ(やや)
出典:NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第六回「一夜城主」
ややが素直に念仏を唱えることを許さなかった橋田先生(笑)ほんと、徹底してます。
演者の講釈風味で殺めの映像を端折る
劇伴の一番の盛り上がりとともに。秀吉たちが稲葉山の斎藤勢に襲いかかろうとしたところで情景が変わり。
過去の武勇伝と化した稲葉山攻めについて、作者が秀吉に名調子で語らせた一幕。
要するに、戦で斎藤勢を殺める情景を思いっきり端折ったわけです。桶狭間の時も、秀吉が講釈風味で語らいながら敦盛まで披露していましたが。義元なりに奮戦していた情景は描写されていましたからね。
映像を端折られたことで、一気に大きな負担がのしかかってきたのが秀吉役の西田敏行さん。
否定語+否定語=肯定語。故に。
それにしても、当時の西田敏行さんって。記憶力というか、台詞を忘却させない技術力が並外れていた様相にも。どうやって台詞をインストールしてたんだろうね。
兎に角、橋田壽賀子作品は色んな意味で演者を選ぶわけです。
廃城となった墨股城
これは、おんな太閤記ならではの一幕。廃城になった墨股城が改めてクローズアップされるのは珍しいのでは。
兎に角、橋田先生の着眼点が面白い。
ヒロインの魅せ場は容赦なく
どちらかと言えば、きいやともといった脇役たちのパフォーマンスを引き出すような役回りを、ねねが担っていた様相にも。
ところが、第六回のクライマックス直前にて。秀吉を引き立てつつも、しっかりとヒロインの魅せ場をこしらえてきた橋田壽賀子脚本。
それがこちら。
(笑)急に、墨股へ行きたいとおっしゃられたので、何事があったのかと案じておりましたが、それ故でございましたか。浮かぬお顔もそれ故で。はあ、安堵いたしました。御前様は、それほど出世なさりたいのか。これまでの御勤めも、やっぱりみんな出世のためじゃったのか。御前様は、その時々の御勤めを精一杯なさりたいとおっしゃっておられた。あれは偽りじゃったのか?(ねね)
おかかに儂の悔しさなど分かってたまるか(秀吉)
御前様はそういう御人じゃったのか!(ねね)
しっかりなされませ。秀吉殿らしゅうない。出世なさろうとなされまいと、御前様は御自分が好きで、御勤めを果たされた。それが、無事成就されたのじゃ。それで十分じゃありませぬか。そんなことよりも、下の者を大事になされませ、なあ?上ばかり見て、下の者を忘れるようなことになっては、みんなはついてはきてくださいませぬ。御前様がいくら偉うなられたって、何の御働きにもならないではございませぬか。御前様が、つまらぬことでくよくよしていらしたら、御前様のために、命を懸けて働いてくだすった方達は、浮かばれないではございませぬか(ねね)
出典:NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第六回「一夜城主」
台本見た時点で、凡人だったら吐きそうになってくるよね(笑)
というわけで、当時の佐久間良子さんは人間離れしていましたよね。
これね、実際の台詞をそのまま拾って記載しているから。どんなに橋田先生が素敵な台詞を表現したとしても。読んでいるだけで、具体的の恐怖感に苛まれない道理がない(笑)
週刊おんな太閤記随想、第六回「一夜城主」
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