NHK大河ドラマ『おんな太閤記』第八回「小豆袋」における橋田壽賀子脚本らしかった部分をあれこれと随想します。
第八回「小豆袋」の概要
NHKオンデマンドの場合
信長は将軍・足利義昭を擁立して上洛(じょうらく)すると、秀吉は京で守護職として義昭を見張ります。ねねは岐阜で留守を預かり、利家とまつは国許の荒子(あらこ)城主になるため岐阜を去ります。信長は、義昭と通じて信長を狙う越前・朝倉義景を攻めると、浅井長政に嫁いだ妹・お市から両端を結んだ小豆袋が届きます。信長は長政の離反を察して退却を決めると、秀吉は全軍を安全に逃がすため殿(しんがり)を務めます。
作者の気まぐれが横行する
何も私の顔を見て引っ込むことはないではないか(やや)
弟夫婦の屋敷で何かと御厄介になっている、とも。ややから御荷物呼ばわりされていることを察していたのか。何も語ることなく、奥の間に姿を消した、あからさまの女。
画像:NHK大河ドラマ『#おんな太閤記』第八回「小豆袋」 pic.twitter.com/CNlCiSgeec
— 渡る世間の片隅で (@watasumi_net) May 28, 2022
おそらく、ややから、ねねの「御荷物」呼ばわりされていることを知った、ともが態度で嫌悪感を露わにした一幕。なのに。
ねねときいが京から帰参して間もない団らんの情景では、何事もなかったように、ややとねねが対面に(笑)別段、ともが途中退席することもなく。
さらに、信長敗れるの報を知った際には、ともがややに質問する一幕も。
では、藤吉郎をはじめ皆様の御命は?(とも)
分かりませぬ。ただ、秀吉殿は殿を御勤めなされているとか。もしものことがあっても取り乱すなと、御父様が。(やや)
それでは冒頭の方で、ともがややを拒否った一幕はなんだったのでしょうか??
あくまでも推測となりますが、単純に作者の気まぐれかと(笑)
きっと、ともが無言でややに背を向けて引っ込んだら面白いと思ったんでしょう。
確かに面白かったけど。その後、何かのイベントで意気投合したとか、何かしらの説明がほしかったかもね。この点について、後の渡鬼に比して、橋田先生の意識が熟成していなかった様相にも。
ねねが秀吉の浮気を助長する
京暮らしは傍目にはそう見えるかもしれぬが、秀吉殿は色々気を遣われて大変じゃと、下された文(ふみ)にこぼされてあったわ。(ねね)
文は重宝じゃのう。そのような言葉を真に受けて。弥兵衛殿の文には「御義姉様が御気の毒じゃ」と。弥兵衛殿は内密にと書いておられたがの、私はもう腹が立って。秀吉殿にはちゃんと女子(おなご)がおられるそうじゃ。(やや)
たいていの人は、ややの言っていることを信じて戸惑ったりするものだけど。
ヒロインのねねは、夫の秀吉を信じて止まない傾向(笑)
弥兵衛殿が何を言うてよこしたのか知れぬが、口さがない人の噂に乗せられてはしたないこと言うのはおよしなさい!(ねね)
弥兵衛殿が根も葉もないことを言うてるとおっしゃるのか?(やや)
たとえどのようなことがあっても、秀吉殿を信じていればそれでいいこと(ねね)
ますます、ねねと秀吉の間に、やや子が授かるのは難しい状況にも。
秀吉殿は、物味遊山で京に参ってるのでないわ。御用繫多の中に、女子(おなご)が出てって御勤めに差し障りがあったら何とする。(ねね)
無論、ねねの配慮が、秀吉の浮気を助長しない道理がない(笑)
小六は例えたがる
特に、第八回の蜂須賀小六は、あだ名でもって相手を見下す傾向があることを露わにしました。
儂もあの光秀という男どうも性に合わん。義昭の腰巾着のくせをしおって折あらば信長様に、寝返ろうとの魂胆。抜け目のない男よ。(小六)
あのような泥鰌髭(どじょうひげ)など一思いにひねり潰せばよいのじゃ(小六)
無論、橋田先生が考えているわけだけど。あだ名をつけるセンスも抜群でしたね。
あとは、京で女子(おなご)遊びにうつつを抜かす秀吉の現状について、ねねが知らないことを、ことわざで例えたりと。
まあまあ小一郎殿。京の暮らしも長い。秀吉殿とて戦がなければ寂しかろう。ねね殿のことを粗末に思っておるわけではない。ただの遊びじゃ。目をつぶっておれ。それにじゃ、事を荒立てて大きゅうしては信長様への聞こえも悪かろう。ねね殿とて、知らずば「見ぬもの清し」じゃ(笑)「知らぬが仏」よ(笑)
それも類語を二つも小六に言わせてるし(笑)橋田先生、くどい。
番人たちが御気の毒様
木下様の軍勢は皆、一人もここにはおられぬ(門番)
どちらに御出陣じゃ?(ねね)
知らぬ。木下様の御内室とあらば、知らぬ道理があるまい。名を語る怪しき者。うろうろしておると、ただではおか、あっ痛!(門番)
作者としては、この後の団子屋のシーンにつなげるためにも、おみつを暴れさせることは必須だったみたいだけど。番人が本当に、ねねたちをただでは済ませなかったかといえば。そんなこともないような。とっとと退散させるために、ちょっと脅し文句を言い始めた矢先に(笑)
さあ、早くお逃げなさいませ!さあ早く!お逃げなされませ!(おみつ)
おみつの空回りが、無駄な騒動を巻き起こした様相にも(笑)
きいに団子を食わせたい
きっと、ねねとおみつがやり取りしている最中に、きいにひたすら団子を食わせたら、面白いとかかわいいとか、いろいろ作者が考えたんだろうね(笑)
演者は演者で、結構大変だったみたいだけど。
余談ですが、NHKおんな太閤記も同窓会をやってほしいですね。
行きはよいよい、帰りは怖い
この戦は長引くかもしれぬ。どのようなことが起こるかもしれぬ。早う、岐阜へ帰らねば。(ねね)
ねね様。私はこれにて(みつ)
おみつ、二人だけで帰らすんだ(笑)追い剥ぎやら手籠めに遭うリスクだって高かっただろうに。
さりげなく、驚愕した一幕。
初登場の長政が大いに語る
作者によるウェルカム・パーティーの様相を呈した浅井長政の長台詞。
橋田壽賀子作品って、初登場の人物に関しては長台詞が顕著になる傾向。
小豆袋で危険を知らせる
お市が夫・長政と敵対した兄・信長を助ける苦肉の策として表現された小豆袋。両端を紐で縛ったことで、織田は朝倉と浅井の「袋のねずみ」であることが表現されたわけですが。女子(おなご)のお市が大きく関わっているエピソードということで、橋田先生にとっては扱いやすくない道理がない様相にも。
殿(しんがり)の秀吉に誰も加勢しない
命を粗末にするなよ。ねね殿のためにものう。(利家)
といった言葉を残しつつ、秀吉に殿を任せて、とっとと現場から立ち去った利家とか(笑)
他作品であれば、家康の加勢はありがちだったりと。NHKおんな太閤記の場合、第八回まで家康が面を明かしていない事情等もありますからね(笑)
週刊おんな太閤記随想、第八回「小豆袋」
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