令和3年4月、あの橋田壽賀子先生がこの世を去って終われるという信じられない事態が起こってしまいました。このことは、橋田先生がライフワークとしてこしらえ続けてきたTBS『橋田壽賀子ドラマ 渡る世間は鬼ばかり』の終焉を意味することでもあり、ただただ寂しさが募るばかり。
このような厳しい現実とは裏腹に、渡鬼の新作が観たい、渡鬼ファミリーに集ってほしい、などといった願望を消し去ることもできずに。
橋田壽賀子ドラマだから色んな意味で面白かった渡鬼。それを他の脚本家が新作として執筆するということ。すなわち、橋田壽賀子ドラマ継承の是非について何かと考えてみることにしました。
渡鬼のともしび(灯)
新型コロナウイルス感染症の影響により、令和2年に渡鬼が制作されなかったこともあり。令和3年の放送を数多の民が心待ちにしていたにもかかわらず。作者の橋田壽賀子先生が天国に旅立たれて逝かれたことで。2019年のスペシャル放送が渡鬼の最終作になってしまうのか。これは何とも遺憾。
だから終わった気がしない。そもそも、作者がこの世を去った事実をまだ受け容れきれない。
そんな矢先、TBSに続いてNHKでも追悼番組が放送されて。
4月25日(日)午後1時50分〜NHK総合テレビで「#おしん」の再放送と、お世話になりました #橋田壽賀子 先生を偲ぶ座談会が放送されます。伊東四郎さん、泉ピン子さん、石坂浩二さん、大先輩とご一緒させて頂きました。#小林綾子https://t.co/hJuIRRzC1N
— 渡る世間の片隅で (@watasumi_net) April 25, 2021
この番組を観つつ、おしんの出演者に思いを馳せているうちに。
やはり、橋田壽賀子ドラマの終焉を突きつけられたストレスからか。
いつの間にか、本音と建前が交錯した複雑の胸中をツイートで吐露することに。
本音と建前の狭間にて候
他の脚本家の先生が渡鬼を継承してくれるのは全然ありだと思うの。石井ふく子Pの判断にもよると思うけど。ただし、肝に銘じておくこととして。「橋田壽賀子作」は唯一無二だということを忘れてはならない。
— 渡る世間の片隅で (@watasumi_net) April 25, 2021
我ながら何とも両極端の意見が短い文章で書き連ねており。これについては、釈明と言いますか、解説を要すると判断しました次第。改めまして、自ら発したツイートを6段階に分解してご説明すると。
兎に角、明らかのこと、それは。
やはり、渡鬼の今後については石井Pが鍵を握っているということ。
渡鬼新作は石井P次第
昭和の時代から、共にテレビドラマをこしらえてきた鴨下信一さんと橋田壽賀子さんに先立たれてしまった石井ふく子プロデューサー。
やはり、二人の戦友を令和3年に相次いで失ってしまった石井ふく子Pの悲しみは計り知れない。
それでも、橋田文化財団の存続等、橋田壽賀子先生の死後事務を司ること、すなわち仕事に没頭することで、何とか悲しみを吹っ切っていただきたいと願うばかり。そして。
令和3年の渡鬼に期待したい!
令和3年の渡鬼企画案
渡鬼の新作については、生前の橋田先生と構想を進めていたご様子。
もしも、令和3年の渡鬼が企画されるとすれば。
いくつかの仕上がりが考えられますが。
無難な仕上がりになりそうなのは。
随所に名場面を挿し込みつつ、存命する多くの出演者をゲストとして招き入れる流れ。
この際、第1シリーズに出演された唐沢寿明さんとか香川照之さんとかも是非ゲストとして!
大吉の姉・森山珠子がハワイに帰る前夜に岡倉邸で催されたお別れ会の情景。
特別出演の森光子さんを囲む渡鬼ファミリー、そして後の世のNHK大河ドラマ「利家とまつ」で名を馳せる唐沢寿明さんと香川照之さんが共演。#渡鬼名シーン数え唄
出典:TBS渡鬼第1シリーズ第46回https://t.co/bFyehXJZtI pic.twitter.com/7iTl4wusPj
— 渡る世間の片隅で (@watasumi_net) December 7, 2018
何とも豪華で素晴らしいグランドフィナーレに!
兎に角、多くの過去鬼出演者をお招きしてほしいものです。
第27回橋田賞授賞式と渡鬼出演者の情景!
前列左から:宇野なおみさん 沢田雅美さん 東てる美さん 野村真美さん 吉村涼さん
後列左から:山田雅人さん 村田雄浩さん 植草克秀さん 西原亜希さん 清水由紀さん 渋谷飛鳥さん 岸田敏志さん 榎本たつおさん素晴らしい😭https://t.co/2RzhYE04yb
— 渡る世間の片隅で (@watasumi_net) May 12, 2019
可能であれば、橋田先生と石井Pの二大巨頭による最新作の構想をミニドラマとして織り込んでいただきたいもの。その際の脚本は、石井PもしくはTBSの制作スタッフがこしらえてみるとか。
さらには、オーケストラによる渡鬼音楽演奏、再び!
今度こそ、フルバージョンの演奏に酔いしれて涙を流したい。
というわけで、橋田先生とのお別れを兼ねた渡鬼のグランドフィナーレについては充分に実現できそうですね。兎に角、石井Pのプロデュースに期待して止まないところ。
仮に令和3年に何かしらの形で渡鬼が放送されたとして。
定石通り、渡鬼は幕を下ろしてしまうのか。
それとも、他の脚本家による新たな渡鬼の幕開けが許されるのか。
渡鬼継承の是非
まずは、改めて渡鬼のタイトルに注目してみたいと思います。
前者はTBSチャンネルなどの公式サイトで見られる記載ですが。
個人的には後者の『橋田壽賀子ドラマ 渡る世間は鬼ばかり』を好んで用いています。
それはなぜか?
唯一無二
渡鬼は橋田壽賀子ドラマであり、橋田先生と渡鬼は一体化していると思っていたからです。
おしんとは異なり、平成以降の橋田先生の生活感が色濃く反映されているのが渡鬼の大きな特色。従って、他の脚本家には書けないオリジナリティの強さが唯一無二の所以。
例えば
これは、加津の実母・みのりが名乗ったハンドルネーム。まさか、橋田先生によってハンドルネームが表現される時代が訪れるとは。そもそも、小母さんって何?平仮名でいいじゃん。何故に漢字を使う?それも「小母」って?
などとツッコミどころが満載のわけです。ハンドルネームに小母さんとか思いつくのは橋田先生ならでは。凡人ではまず思いつかない秘術。
他にも
良が脱サラして仲間と起業した「ごはんや」。っていうか、炊いた飯を注文する経済感覚に対して、個人的には疑問を呈したいところ。飯くらい自分とこで炊けよ、なんて大吉に物申したい衝動に駆られたものです。
さらには
あり得ない。どんだけ「おかくら」って高級料亭なの?
本当にツッコミはじめたらきりがない。
兎に角、浮世離れが愛おし過ぎた橋田マジックの妙技。
だから、他の先生がホンを書いたところで。
違和感必至
違和感が生じるのは目に見えるように明らか。
そこそこ面白い作品になったとしても。
などと、視聴者の声が上がるのも必然かも。
そのような批判を覚悟の上で渡鬼を書きたいと思った場合。
研究必至
渡鬼は2019年のスペシャルまでの全511話を橋田先生お一人で描き上げました。
本当に渡鬼の最新作を書くのであれば、橋田先生のことや過去鬼研究が必然でしょうね。
小手先だけのシナリオをこしらえたところで、違いが分かる視聴者には見透かされます。
ちなみに、研究者の資質としては、記憶力が長けていることに越したことは無いかも。
それは、作者自らがこしらえた登場人物の既成事実を、何もなかったかのように作者自身が忘却するくらい、渡鬼は膨大ですからね。
足元にも遥か遠く及ばない
チャンスがあれば渡鬼を書いてみたいと思っている方がいるのかもしれない。しかしながら、渡鬼を書いたところで、偉大な先代が遺されたイメージ(功績)と対峙しなければならず、それでいて橋田先生を追い越せる見込みは万に一つもない。それくらい、橋田先生は偉大過ぎて、足元には遥か遠く及ばない。それでも渡鬼の新作を書きたいと思ったところで、多大なる研究時間を費やすことにも。
それならば、橋田流を意識しつつ、ご自身なりのオリジナルでホームドラマをこしらえた方が色んな意味で無難だったりと。
もしもお弟子さんがいたら
橋田先生は熱海のご自宅で後進を育てる準備もされていたようですが。渡鬼の執筆や芸能活動、そして豪華客船による旅行を嗜まれたことで。結果的に、お弟子さんの育成には至らなかった模様。
橋田先生亡き後、もしもお弟子さんが存在すれば、上手い下手は二の次にして、堂々と橋田壽賀子ドラマの後継者を名乗ることができたでしょうに。
橋田先生がこしらえてきた唯一無二の渡鬼。それでも新たな渡鬼が制作されることになった場合。いったい、どのような脚本家の先生が担うことになるのか。全く想像できませんね。
それでも、映画版のおしんに関しては、別の先生が脚本を担当されました。
映画化された『おしん』
NHK『おしん』と言えば、「オシンドローム」を巻き起こした橋田壽賀子先生の宿願。
その映画版の脚本を担当されたのが山田耕大さん。
映画「#おしん」
3/28(日)午前11:00出演:濱田ここね、上戸彩、岸本加世子、井頭愛海、小林綾子、満島真之介、乃木涼介、吉村実子、ガッツ石松、稲垣吾郎、泉ピン子 ほか
原作 : 橋田壽賀子
脚本 : 山田耕大
監督 : 冨樫森
2013年制作— 渡る世間の片隅で (@watasumi_net) March 22, 2021
映画が隆盛を極めた昭和の時代には、トラック野郎や兵隊やくざなど、多くの作品がシリーズ化されていました。今後、令和の世に敢えて映画版のおしんをシリーズ化する監督さんが出現したら嬉しいですね。少女編だけではなく、今が旬の女優さんが演じる結婚編や流浪編なども観てみたいものです。
というわけで、別の脚本家の先生によって、新たな『おしん』の世界が創出されたわけですが。果たして渡鬼に関しては同様のことが可能なのか。この点を検証していく上でも、向田邦子ドラマの継承を参考にしたいと思いました。
「寺内貫太郎一家」の継承に学ぶ
橋田先生が一流として称える女性作家と言えば向田邦子さん。
そんな向田さんが世に遺した大人気ホームドラマと言えば『寺内貫太郎一家』。
このドラマのプロデューサー兼演出が久世光彦さんだったわけです。
新・寺内貫太郎一家
ということで、向田さんの没後十年を記念して制作されたのが『新・寺内貫太郎一家』。
このドラマでも久世さんが演出を担当されましたね。
そして、ドラマの冒頭には以下のようなメッセージが!
制作を正当化するかのような「魔法の言葉」が冒頭を彩ったわけです。
これらのメッセージは、向田邦子さんに捧げる「記念番組」を謳ったことに大きな意義があるのかも。
このようなお膳立てによって新たに脚本を担当されたのが金子成人さん。
『新・寺内貫太郎一家』では、メインキャストが大きく一新されたこともあり。どうしても過去作品との比較で厳しい洗礼を浴びたかもしれません。
それでも、久世さんがご健在だった頃は、向田邦子作品の多くの脚本を金子さんが担当されたようです。
メモリアルとしての継承
「寺内貫太郎一家」のスペシャル放送が実現したのは、生前の向田さんとタッグを組んで制作にあたっていた久世さんの力に他ならないはず。それ故に、久世さんが存命中に向田作品を積極的に表現された様相にも。
ということは、橋田先生と盟友関係にあった石井ふく子Pが、橋田先生亡き後の渡鬼を表現することだって当然の如く許されるはず。すなわち、石井Pの判断次第で、他の脚本家による渡鬼の継承が実現可能となる道理。
その場合、「向田邦子 記念番組」に倣って、冠の部分を「橋田壽賀子ドラマ」ではなく「橋田壽賀子 記念番組」とすればよいわけですね。
いよいよ、渡鬼継承の青写真が見えてきました。
渡鬼継承の青写真
渡鬼の継承条件について。
次の3点が個人的には重要と判断しました次第。
タイトルについては、橋田壽賀子先生の記念番組であること、そして「新」を付け加えることで橋田壽賀子ドラマ並びに従前の渡鬼とは多かれ少なかれ違いが生じることをタイトルで示唆すること。その上で、引き続き石井ふく子Pがプロデュースするとともに、これまで通りの石井ファミリーが演者となれば。他の脚本家を起用したとしても、渡鬼としての仕上がりが期待できるというもの。
それでも違和感が生じるのは致し方ないところ。
だって、跡継ぎがどんなに優れていたとしても。偉大な先代の後釜が苦難を強いられるのはどうしても必定となるからです。
いかがでしょうか?
橋田先生の聖域と化していた渡鬼ですが。
当記事をこしらえているうちに、継承されるのは「あり」だと思えるようになったような、ならないような。
石井ふく子劇場に期待したい
兎に角、石井ふく子プロデューサーの目の黒いうちは、渡鬼の灯が消え失せることはないと勝手に判断しました。すなわち。
そう信じたいものです。
確かに、橋田壽賀子先生が書いていたから渡鬼は面白かったのです。
しかしながら、石井ふく子Pが引き続きプロデュースしてくれることで、他の脚本家によって渡鬼が継承されたなら。
やはり、石井ファミリー集結のドラマがなくなるのは痛いこと。
そこで、渡鬼が継承された場合、物語の中で時代に逆行するかのように『ありがとう』の令和版が上手く表現されたら必ずや面白いはず。
タイトル名に関しては、橋田先生の呪縛から逃れるかのように、石井ふく子劇場『渡る世間にありがとう』とか『五十年後のありがとう』とか。さらには『渡る世間の肝っ玉』とかで冒険してみるのも一案。
石井ふく子さん92歳のお誕生日会。
71歳の私がガキのように、
あれこれお説教頂いたのでした。
男優陣も当然ながら、女優陣のすごいこと。 pic.twitter.com/cNWOkTQaDF— 西郷輝彦 (@teruhikosaigo) September 1, 2018
兎に角、石井Pの主導による新・渡鬼の継承について。
石井ファミリーの集結で盛り上げていただければ。
有難いと思っています。