TBS『橋田壽賀子ドラマ 渡る世間は鬼ばかり』3時間スペシャル2018を検証します。今回は、本間クリニックの英作に弟子入りするために長台詞を展開する晴彦(シーン16)の巻です。
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物語を検証してみる
前シーンの長子と看護師・ミツの会話から、本間クリニックに押しかけてきた八木さんの息子(八木晴彦)の正体が明らかになってきました。
それでも不明な点がまだまだありますね。
結局、医師でもある八木晴彦が何しに英作を訪ねてきたのか。
それでは英作と晴彦の談合風景を観ていくとしましょう。
お礼を申し上げる晴彦
英作:亡くなったお父さんのこと、君の気持ちを大事にできなくて、君がどんなに辛い思いをしたか、ほんとに申し訳ないと思っている(と言って、晴彦に首を垂れる)。
晴彦:とんでもない!お詫びしなければならないのは私の方です。本間先生のおかげで、父は幸せそうな顔をして、あの世へ旅立ってくれました。本間先生には、改めてお礼を申し上げます(と言って、英作に首を垂れる)
首(こうべ)を垂れ合う英作と晴彦(笑)
とりあえず英作に文句とかを言いに来たわけではないことをアピールしたわけです。
父への思いを語る医師・晴彦
晴彦:私は医者として、父親には一日も長く生きてほしかったんです。父親だって、母や私たちのために同じ思いだろうと、私の勤務している大学病院へ入院させて、最高の治療を受けてもらえるよう努力しました。
英作:(頷く)
晴彦:もちろん、もう高齢でしたし、肺癌の末期で手術もできず、死を覚悟しての入院でした。それでもせめて精いっぱいの延命治療をしてやりたい、それが医者になった息子の使命だと信じていたんです!
亡き夫への支援方針、自らが勝手に考えた息子としての使命を一方的に語る晴彦。
お疲れな面相を醸し出しながら傾聴する英作。
この場面からも、自分の気持ちを最優先する晴彦の特性を読み取ることができます。
相手の気持ち、すなわち英作がどのような気持ちで対座しているかなど、晴彦にとっては二の次っぽい。
在宅治療を希望した晴彦の父
晴彦:まさか父親が、うちへ帰りたい、死ぬのならうちでって言い出すなんて、思ってもいませんでした。退院なんかしたら思うような治療はできません。死期が早くなることは目に見えてます。
「まさか」って、八木先生(笑)
大半の人は自宅で最期を迎えたいと思っている。例えば下の記事。
八木晴彦母の乱
晴彦:けど母親は、治療のために管だらけになって、ただベッドにいる父親を見るのがたまらなかったんですね。あの管から解放してやってほしい、うちへ連れて帰って、もう一度自分の好きな暮らしをさせてやりたいって泣いて頼まれて!それでも私は反対しました!そしたら母は、本間先生を病院へお連れして、父親の主治医と相談していただき、結局、自宅療養ということになって、父はうちへ帰りました。
この辺の説明的な長台詞は英作もわかっているはずだから。どちらかと言えば、視聴者向けのリップサービス的な晴彦の長台詞と解釈できますね。
晴彦の母親の気持ちが世間一般的な感情かも。
ただ、医師としての晴彦の気持ちもわかる。在宅医療は課題が多いから。
そして、ようやく久しぶりにコメントを発表した英作。
英作:お父さんもお母さんも、喜んでくださった。けど、君にしたら、どんなに腹の立つ、つらいことだったか、よくわかってる。いまさら君に謝っても遅いでしょうか(と言って、再び首を垂れる英作)。
自らの行為を正当化しつつ(笑)晴彦の当時の気持ちを受け容れて謝罪する英作。
「看取り」を晴彦に語らせる橋田壽賀子先生
晴彦:いえ!間違っていたのは私の方でした。うちへ帰ると父は、本間先生のご指示で、生きるためにつけていたいろんな管はもうつけずに、のびのびと寝ていました。今まで管で送り込まれていた栄養はどうなるのかと心配しましたが。なんと、母が作った料理を自分で食べたのです。それも「美味しい、美味しい」と言って。言葉も取り戻し、笑顔も見せるようになって。
(渡鬼BGMのバイオリンの音色が感動モードを演出開始)
晴彦:ほとんど普通の人と変わらない暮らしが帰ってきていました。それには私もびっくりしました!病院で、一日でも長く生きてほしいと努力していた治療は何だったのか。実は、父を苦しめていただけではなかったのかと、やっと思い当たりました。在宅治療になってから、父は、いろんな方に見舞っていただき、父なりに悔いのないお別れもすることができたと喜んでいたそうです。ひと月ほど、母や姉たちに囲まれて、笑いながら暮らし、眠るように旅立ちました。母は今でも「本間先生のおかげだ」と感謝しております。
現状の日本の法律の中で、橋田壽賀子先生が理想とする最期が表現された印象。
でも、本当に橋田先生が希望するのは「安楽死」を選択する権利。
それにしてもBGMのバイオリンの音色が感動シーンとして盛り上げようとしているなぁ(笑)
とにかく晴彦の独壇場ですね。「食べたのです」のところとか(笑)
英作のような医者になりたくなった晴彦
英作:だったらぁ、よかった。息子さんの君には、私のしたことは許せないんじゃないかと思っていました。
晴彦:私は大学病院の医師として、人の命を救うこと、一日でも長く生きられることを目指してきました。でも、父の死をみて、本人が希望しない延命はしないで、幸せな最期を過ごさせてあげて、安らかな笑顔で死を迎えられる。そういう人の死と向かい合える医者になりたいと思うようになったんです。本間先生のような医者に!
さらに、長台詞を駆使して晴彦に延命治療を否定させる橋田壽賀子先生。
本間クリニックに従事したくなった晴彦
晴彦:それでお願いにまいりました。先生のクリニックで働かせていただけないでしょうか。いずれ私も、在宅医として開業するつもりでおりますが。そのために、しばらく先生のお手伝いをさせていただいて、本間先生と同じ志をもつ医者になりたいのです。よろしくお願いします(と言って、英作に首を垂れる)。
「君はどこまで自己中心的なのかね」と晴彦に言ってあげたい印象(笑)
晴彦の熱意はわからないでもないが。
何とも面倒くさい人物に尊敬された英作。
英作:いやいやいや、いやせっかく母校の大学病院で勉強なさっているのに、もったいないじゃないですか。病気を治すことだって大事な仕事なんですよ。
常識的な発言で晴彦を諭す英作。
「いやいやいや、いや」のところ、よい味風味が多かれ少なかれ醸されたかも(笑)
晴彦:これから高齢化社会になって、医療はもっと大切になってきます。だから!
こういう人物は後々も何かと面倒くさそう。個人的には雇いたくないなぁ(笑)
ちなみに、日本はすでに超高齢社会だ。
大学病院を辞めちゃった晴彦
英作:君の気持ちはよくわかりました。でも、ご家族ともよくご相談なさって。
晴彦:相談するも何も、大学病院やめて、実家に帰ってきちゃったんです。もう後には引けません。
〈中略〉
晴彦:母だって、私の決意を聞いて賛成してくれているんです。本間先生のお世話になって、いつか本間先生のようなお医者様になれたらいいねって。
大学病院やめてきちゃったって??
順序、逆だろう。まずはしっかりと本間クリニックにアポをとって、医師の募集をしているかどうか確認すること。それで募集していなければ、そのまま大学病院の仕事を続ければよいわけだし。
晴彦の印象、今のご時世ではよいとは言えないかも。
英作へのアドバイスとして、こういう人には履歴書を後日「郵送」してもらったほうがよい。後のことは履歴書が送られてきてから考えればよろしい。
ということで「母だって」のところで、本間クリニックの電話が鳴り始めました。
逃げろ、英作!
看護師・ミツ:ナカタニさんからお電話で、ご主人の様子がおかしいって。
英作:わかった、すぐ行きます。今日は急患なんで、これで。
晴彦:先生!
看護師のミツが英作の「救世主」になった様相。
今がチャンス!逃げろ、英作!
ところが。
追いかける晴彦(笑)
英作:今日か明日かっていう患者さんなんだ。君に待ってもらっても、いつ帰れるかどうか。
長子:(心配そうに様子を伺う)
晴彦:お供させてください。少しでもお手伝いできたら。させてもらいたいんです。お願いします(と言って、英作に最敬礼で首を垂れる)。
長子:(呆れた面相)
重ね重ね空気が読めない晴彦(笑)ほんと、遠慮がないよね。
それにしても英作、人がよいね。
長子の面相が視聴者の心理を代弁しているかのよう。
渡鬼初登場の関口まなとさん
残り29日!
渡鬼のイケメン新メンバー!
医師・八木晴彦役の #関口まなと さん!#渡る世間は鬼ばかり pic.twitter.com/TFL9lMp0sh— 渡る世間は鬼ばかり 2019年9月16日放送 (@wataoni_tbs) August 18, 2018
八木晴彦という強烈なキャラクターを好演された関口まなとさん。
渡鬼初登場で上記のような尋常でない長台詞をもらえたことは、やはり恵まれた役者さんと言えるでしょう。
初登場のキャラクターって、渡鬼の場合はどうしても説明的なセリフになりますし。撮影中だけではなく、放送日以降も大きな洗礼を浴びるのは必然かも。
個人的な感想としては、あれだけの長台詞を覚えるだけでも大変だということ。
さらに長台詞を晴彦として表現しなければならず。
色んな事を加味すれば、初登場としてはまずまず上出来だったのでは。
2019年の渡鬼で八木晴彦がどのように広がりをみせるか。
関口まなとさんの今後の進化に期待したいですね。
「傾聴一徹」英作の2018年
ここからは「医師」本間英作に迫ってみたいと思います。
ということで、やはり気になったことは。
話をしっかり「傾聴」してくれるお医者さんって、患者やその家族からしてみれば本当に有難い存在です。
2018年の渡鬼で、医師として成熟した英作を垣間見た思い。
このように進化した英作には、橋田壽賀子先生の強い思いが反映されているようです。
患者の体だけじゃなくて、心も診てくれる本当の在宅医と知り合って、うまく送ってもらいたいと思っているんですけど。私は、だいぶ前からそれをドラマ『渡る世間は鬼ばかり』の中で、植草克秀さんが演じている医師、本間英作に託して書いているんです。英作は大学病院の脳外科医だったんですが、現在は訪問診療の専門医に転じている。
ちなみに。橋田壽賀子先生と言えば、英作のことで下のような記事もありました。
上記の記事について、要するに、橋田先生がイメージした「看取り」の医師(英作)は、現実社会の看取りの名医とは異なることを言いたいようです。
橋田先生がどんなに偉大な作家とは言っても、医療に関してはプロではないわけですから。ご愛嬌と言ったところでしょうね。
最後に、2018年の渡鬼で再認識したことと言えば。
そもそも、いちいち話の腰を折られては「長台詞」は成立しないわけですから。
とにかく何ページにも及んだであろう晴彦の尋常でない長台詞をひたすら傾聴するのは、現実社会では非常に大変なこと。
英作、本当にお疲れさま。
渡隅賞の発表!
このシーンの渡隅賞各賞を発表します。
各賞受賞のみなさん、おめでとうございます!
新人賞・長台詞賞・熱弁賞・猛追賞・敬礼賞
英作に弟子入り志願な八木晴彦を演じた関口まなとさん。
橋田壽賀子先生が関口まなとさんのために用意された見事なデビュー戦。
渡隅賞各賞を総なめにするご活躍となりました。
残り29日!
渡鬼のイケメン新メンバー!
医師・八木晴彦役の #関口まなと さん!#渡る世間は鬼ばかり pic.twitter.com/TFL9lMp0sh— 渡る世間は鬼ばかり 2019年9月16日放送 (@wataoni_tbs) August 18, 2018
傾聴賞・忍耐賞
八木晴彦の長台詞をひたすら傾聴した本間英作役の植草克秀さん。
「傾聴」が渡鬼名物であり、同じく渡鬼名物の「長台詞」を引き出す上で非常に重要であることを改めて認識させてくれました。
救世主賞・伝令賞
患者さんのご家族からの電話を英作に伝えた看護師・ミツ役の岡本茉莉さん。
みんなが色んな意味でミツに助けられました。色んな意味で。
代弁賞・面相賞
晴彦の一部始終に呆れた面相を醸し出した本間長子役の藤田朋子さん。
あの表情で視聴者の気持ちも代弁されていましたね。
放送まで1週間切りました!
本日から岡倉家五姉妹が連日登場!
初日は、五女・本間長子役の #藤田朋子 さん! 撮影の合間、衣裳部屋で📸#渡る世間は鬼ばかり #渡鬼 #TBS pic.twitter.com/AxYUrE4cTk— 渡る世間は鬼ばかり 2019年9月16日放送 (@wataoni_tbs) September 11, 2018
浮世離れ賞
平成末期の日本において、現実社会では受け容れしがたいかもな八木晴彦を誕生させた作者・橋田壽賀子先生。
とにかくこのシーンは、渡鬼の浮世離れポイントが高かった印象。
第26回橋田賞授賞式にてスピーチする橋田先生です👹 pic.twitter.com/BGHrBRZg9M
— 渡る世間は鬼ばかり 2019年9月16日放送 (@wataoni_tbs) July 20, 2018
渡鬼出演者・関係者情報
過去鬼は「TBSチャンネル」で視聴できます。